「左身ごろが上前で、衽は右に来る。」のだけど、自分で着るとき、迷いませんか?
右前か左前か。
初心者の頃は良く迷いました。
しかし、何故迷うのか?
そう、お教室で「前合わせは右前(まえ)ね。左前(まえ)は亡くなった人よ。」みたいに教わる。
え?自分で着ると左側が前にあるのに・・・疑問。
主体になる側の定義が無く「右前」だけが独り歩き。
とりあえず自分で着る場合で考えてみよう。
「まえ」と「さき」
「前」と言う漢字には「先(さき)」という意味がある。
位置の「前」と時制の「前」が取り違えて伝わったのかな?
「右前」を重視するなら、次のように考えてみてはどうでしょう。
「まえ」
右衽令(後述)から考えて「衽(おくみ)が(自分の)右前にある(見える)」
英語に訳せば
“Okumi is on the right front.” *1
“You can see “okumi” on your right front (side).”
うん、わかりやすいかも。
もしくは
「自分の前の右側が開いている」
“My right side opens.”
とはいえ、こじつけの無理矢理感が否めない。
後から見ると右側が開いている。この細長い三角がその証。
「さき」
前と言う漢字には「先に」と言う意味もありますね。
「右が先に肌に触れる」と解釈してみる。
“The right touches the body first.”
“The right covers the body before the left does.”
なら理解できるかな?
うーん、ちょっとわかりにくいし、やっぱり無理矢理かも。
着せ付けの「右前」「左前」
着せ付けでも、やはり初心者の頃は「あれ!?どっちだっけ?」ということはしょっちゅうでした。
その度に何気なくお客様側に立って確認してました(笑)
素直に「右まえ」と考えれば、まさに自分の右が前!
やっぱり「右前」とは着せる側から見た場合でしょう。(絶対そうに違いない!)
一般に言われている右前(右が手前)は着せる側から見てのことなのでしょうね。
昔の高貴な方々は着せてもらっていたようですし。
衣紋方と言う職種?部署?があったそうです。
それにしても紛らわしい「右前と左前」。いつどこで誰が言い始めたのか知りたいです。
「左前」はなぜいけない?
左前は縁起が悪いと聞かされていました。
それは死装束となるから。
葬儀屋さんが仏さまに装束を着せる時は
着せる側から見て左手側(右身ごろ)を上前に着せます。
何故でしょうね?
一説にはあの世はこの世とは全てが逆さまだという考えからだそうです。
右前だったらあの世で肩身の狭い思いをするのでしょうか。
インバウンドの浴衣着付体験では
浴衣体験では外国人体験者が間違えて着ないように、
「前合わせが逆だと棺桶に入らなければなりませんよー^^」
と言います。
I say ” Please don’t mistake. The left is on the right.
If not so, you have to get in a coffin!”
“Oh, no!!”
蛇足でした。
「右衽令」とは?
歴史を紐解くと奈良時代に「右衽令」が発布されました。
読んで字のごとく、「衽の位置は右にしてね。」です。
右に衽ということは自分で着る場合ですね。
奈良時代と言えば、遣唐使が盛んだったので大陸文化の影響でしょう。
唐の文化をお手本にしていた時代です。
追加ですが、
実は労働をする庶民は右前の方が動きやすいからという説もあります。
歴史なので推測の域は脱せません。
発布以前は逆だったそうです。
そもそもなぜ左身ごろが上前に?
衽が右に来るということは左身ごろが上前になります。
そう、左が優先、上位になります。
「じゃー、なんで左が上なの?」という疑問が・・・
その答えはこれではないかな?を見つけました。
古代中国の思想からの影響で「天が先、地が後。左が先、右が後。」という原則があるそうです。
「君子南面す。」です。
(*「懐紙で包む、まごころを贈る。」長田なお著 渋交社 より)
ちょっと、南を向いてみてください。
左手は東ですね?太陽が昇る方向です。
では右手は?はい、西です。太陽が沈む方向です。
お寺に行くと門は皆、南向きですよね。そう、南大門。
北枕は仏さまだし。
だから、左身ごろが上前で、衽が右に来るんです!
おおー!!!なるほど!
ひとりで納得(笑)
まとめ
と言う訳で、
自分で着る場合は「左身ごろが上(上前)で、衽は右に来る。」
誰かに着せる時は「右前ね。」の方が分かりやすいですね!
画像を反転しないように写真をUPする時は気を付けて!
フォーマルなら柄行きが不自然になるから分かるけど、総柄は要注意。
でも、着ている時に紐が掛にくいと思うので気付くのではないかな?
まだまだ少々疑問は残りますが、以上、考察とまとめでした。
*1 本来、衽は衿の延長“an extended big collar”だそうです。身頃の一部だと思ってました。